Von Dutch Motorcycle
■一昨年、アイオワ州アナモサ(Anamosa, Iowa)の単車博物館(National Motorcycle Museum)へ 映画「イージーライダー」で使用されたバイクを見に行った。
記事 → 「イージーライダー キャプテンアメリカ号」
その時、これまで全く知らなかった単車を見つけた。 フォルクスワーゲン社の単車か? その数ヶ月後、昔の貴重な品々を発見して買い取るTV番組 History Channel ”American Pickers”を観ていると、この単車が出て来たのでビックリ。 もしかして、同一の単車だろうか?
Von Dutch Motorcycle in N.M.Museum photographed by Fuji-maru on Nov. 10, 2013
■ネットで調べてみると、博物館にあった単車はTV番組に登場した単車だった。 TV番組の主人公であるマイク・ウルフ氏(Mike Wolfe)が、博物館に単車を寄託していた。 見つけた記事によると、 アンティークショップ”Antique Archeology”を経営するマイク・ウルフ氏と博物館の館長 ジョン・パラム氏(John Parham)氏はアイオワ州出身で古くからの友人。 マイク・ウルフ氏はお宝を見つけると、ジョン・パラム氏が近くに居れば必ず見せに行った。 単車を愛する二人の意見が一致し、博物館に展示する事が決まったという。
現地では気付かなかったが、シート上の黄色い付箋には”Picked by American Pickers”。
■この単車は、1966年頃にケネス・ロバート・ハワード氏(Kenneth Robert Howard, aka Von Datch)がカリフォルニア州LAで製作したもの。 彼のニックネーム”ボンダッジ(Von Datch)”が単車名になっている。 ガソリンタンクのエンブレムから、「フォルクスワーゲン社製の単車だ」と勘違いしてしまう程の完成度。 車用のエンジンが違和感なく搭載されている。 エンジンはフォルクスワーゲン社の水平対向4気筒1200cc空冷エンジン。 フレームはハーレーダビッドソン社のXA。 1942年式ハーレーダビッドソンXAはアメリカ軍向けに造られ、一般的なチェーンではなく耐久性を上げる為にシャフトドライブが採用されていた。 このシャフトドライブがXAの4速トランスミッションを経て、ワーゲン社のエンジンに連結されている。
■単車を構成する部品は寄せ集め。 ガソリンタンクは1960年代のホンダCB450。 ライトやフロントフォーク、前後フェンダー、前後ホイールは1951年製モトグッチ。 マフラーはトライアンフ。 キックスターターが追加された。
■ボン・ダッジ氏は芸術家、兼、バイクビルダーであったようだ。 また、ピンストライプを用いたデザインで有名らしい。 この単車にもピンストライプのデザインが施されている。 バイク以外にも様々な作品を創作している。
hotrod.comより借用
■有名なデザイン画に”Flying Eyeball”というのがある。 見た事があるかもしれないが、記憶に残っていなかった。 単車博物館には彼が描いた絵が飾られていた。 また、彼がピンストライプを入れたトライアンフ(冒頭写真の左)も展示されていた。
■ボン・ダッジ氏は、何故このような単車を製作したのか? 見つけた記事を総合すると、次の通り。 現在販売されている単車は非常に高価で、そんな単車にお金を払う気にならない。 単車の理想は、低重心でスムースに走れること。 全長が長すぎちゃダメ。 キックスターターは必須。 ほどほどのパワーがあり、基本性能が優れていて、安くて、維持費が掛からないこと。 BMWの水平対向2気筒エンジンもいいが、やはり安くて簡単に手に入る排気量の大きい4気筒がいい。 自分で創るしかない。 この思いで、約1年を掛けて完成させた。 廃品を寄せ集めたり、自分の作品と物々交換で部品を入手し、お金は使っていない。
■単車は完成したが、彼は少しだけ乗っただけで隅に追いやってしまった。 何故なら、当初の目的は達成したものの、彼が目論んだデザインではなかったから。 その後、ある雑誌が「お客さん向けに、ポルシェスパイダーのエンジンを載せた単車を再び作ろうとしている」と書いたが、彼は否定した。 「単車は喜びと知識を得る為に作るもので、見栄を張る為に作るものでは無い。 必要のない大きなエンジンパワーがステータスシンボルになるとしたら、ポルシェのエンジンも同様に載せられる。」 彼の言う通り、製作した単車のエンジンは冷却等を考慮した側面もあるが、圧縮比を下げてパワーダウンしている。
■芸術家には良くあることだが、気に入らない作品はバラバラにされてしまう。 そして、カスタムカービルダーのエド・ロス氏(Ed “Big Daddy” Roth)氏の手に渡る。 彼はフォルクスワーゲンのカスタムカーも手掛けており、色々と考えていたようだが、3年ほど単車の部品を持っていただけだった。 そして、カリフォルニア州ガーデナでカスタムカーを製作していたランディ・スミス氏(Randy Smith)の手に渡り、1970年ころに再生された。 スミス氏はテネシー州に引っ越すが、この単車も持って行った。
エド・ロス氏が製作した単車
■約30年間、この単車は納屋の中に放置された。 その後、納屋の持ち主がワーゲンのエンジンを積んだ単車を発見し、第三者を通じてピッカーズのマイク・ウルフ氏に電話が掛かる。 直ぐにマイク・ウルフ氏は現地へ赴き、US$21,000で買い取った。 これが、TV番組で紹介された。 買い取られた単車は、アイオワ州ルクレア(LeClaire, IA)やテネシー州ナッシュビル(Nashville, TN)にある彼のアンティークショップに展示されていた。
「I make a point of staying right at edge of poverty. I don't have a pair of pants without a hole in them, and the only pair of boots I have are on my feet. I don't mess around with unnecessary stuff, so I don't need much money. I believe it's meant to be that way. There's a 'struggle' you have to go through, and if you make a lot of money it doesn't make the 'struggle' go away. It just makes it more complicated. If you keep poor, the 'struggle' is simple」 - Kenny Howard, aka Von Dutch
■純粋な芸術家は欲が無く、作品を商売に結び付けようとしないようだ。 その時代、”Von Dutch Motorcycle”のライセンスをボン・ダッジ氏から買おうという人が現れなかったのか? 現れたとしてもボン・ダッジ氏は売らなかったか、或いは、無視したであろう。 アメリカにはハーレー・ダビッドソン社という巨人がいるから、太刀打ちできないのは明らか。 殆どのカスタムバイクメーカーは、ハーレー・ダビッドソン社のエンジンを用いる。 僕も馬が駆ける時の蹄の音に似たVツインエンジンのアイドリング音が大好き。 アメリカには、アメリカの環境に合ったハーレー・ダビッドソンが良く似合う。 でも、アメリカ以外では、そうではなかったと思う。 現にフォルクスワーゲン社の現地法人がある南米ブラジルでは、ワーゲンエンジンを載せた単車”アマゾネス(Amazonas)”が生産、販売された。 僕としては、ポルシェのエンジンが搭載された単車”Von Dutch Motorcycle”が見たかった。 その昔、キャンピングカーも あと一歩の所でポルシェのエンジンが搭載されたのに・・・
参考記事 → 「世界初のキャンピングカーには、ポルシェのエンジンが搭載されたかも!?」

<参考サイト>
Only 1 vw motorcycle (Youtube 動画 2012/04/28)
‘American Pickers’ VonDutch XAVW Hits Museum! National Motorcycle Museum (2012/11/5)
1966 XAVW Von Dutch motorcycle: Best of 2013 (2014/1/17)
Von Dutch XAVW !日本人ブログ (2013/5/9)
Von Dutch xavw日本人ブログ (2014/4/21)
<ポルシェエンジンを搭載した単車>
Porsche Boxster Motor in Honda Bike, Vancouver Biker Interview (Youtube 動画 2011/04/13)
<参考記事>
アメリカ縦横断 20131110 #30 (お友達のみ限定公開)